声優・悠木碧さんインタビュー

「“ぬい活”はエネルギーをチャージする時間」
――さりげない推し活に込める思い、ぬいと旅する優しい世界

2025.11.07

構成:鷹羽健介(EMATTE)

数々の人気作品に出演する声優・悠木碧(ゆうき・あおい)さん。忙しい日々のかたわらには、ぬいが欠かせないんだとか。そんな悠木さんのぬい活ライフをくわしく伺いました。

――本日はよろしくお願いします。弊社で運営している推し活グッズブランド「OSHI+」の新商品をいくつか持ってきたので、良かったら見ていただけませんか。

悠木碧さん(以下、悠木): よろしくお願いします。わー!、ぜひ見せてください。

――主に、アクリルスタンドやトレカを入れられるプラケース的なものなんですけど。

悠木: シャカシャカするタイプですね。

――そうです、これが最近流行りでして。

OSHI+ Product: Retro Internet

悠木: すごい流行ってるんですよね。かわいい。

――これは“古(いにしえ) のインターネット感”みたいなデザインで、ちょっとバズったりしたやつです。あとは今風の“エンジェルコア”っぽいやつも。

悠木: エンジェルコア! みんな大好き!

――さっきのインターネット感の紫Verと、平成ギャル風のものもあったりします。

悠木:平成ギャルもいいですね。

OSHI+ Product: Heisei Gyaru

――気に入ったものがあればぜひ。

悠木:え、いいんですか? 嬉しいなあ。じゃ・・・・・・インターネットの紫にします。ありがとうございます!

――悠木さんがいつも持ち歩いてるぬいも紫系なので、合うかなと思って。

悠木:あ、そうなんです! 嬉しい。ありがとうございます。今日も「よかったら」って言われたので連れてきてて。

Aoi Yuki's plush, Noe-chan

――かわいい・・・。ノエちゃんを生で見られるとは感激です。

悠木: ずっとこの子が私の代わりに広報してくれてるんですよ(笑)。

――瞳がすごくきれいですよね。グラデーションがかってて。

悠木: そうなんですよ。この中顔面の短さも見てください。どう撮ってもめっちゃかわいいから、本当に助かってます。

――実際、今こうしてパッとスマホ撮りしただけでめっちゃかわいい・・・。悠木さんのSNSを拝見すると、ぬい活の投稿がほとんどですよね。あれはいつ頃から始められたんでしょうか?

悠木: ぬいぐるみを連れて写真を撮るのは、実は子供の頃から好きで。スマホがない時代に「写ルンです」とかで撮ってました。

――そんなに昔から!

悠木:はい。スマホが普及してSNSで共有できるようになって、“ぬい活”という形になったんですけど、実は小2くらいからずっとやってたんですよ。

――最初に連れ歩いていたぬいって、どんな子だったんですか?

悠木:グレーの垂れ耳のうさぎで、名前は「うーたん」でした。キャラクターものじゃなくて、どこにでもあるようなぬいぐるみなんですけど、すごく大切にしてて。小学生の時に親に買ってもらったんです。2000円くらいだったかな。当時の私には大金で(笑)。

――大切にされてたんですね。

悠木:はい。いつもリュックに入れて連れ歩いてて、写真もいっぱい撮ってました。でも持ち歩いてるうちに、毛が擦れたり色がくすんだりしてきちゃって。

――思い出が刻まれていった感じですね。

悠木: そうなんです。でもそれも愛しくて。とはいえ外に連れ出すのが難しくなってきて、次の子を探すようになりました。

――ぬいぐるみを迎えるときって、どんな基準なんですか?

悠木:いや、それがね、すごく不思議なんですよ。別に「めちゃくちゃかわいい!」とか「かっこいい!」って思ったわけじゃないのに、「この子、連れて帰らなきゃ」って思う瞬間があるんです。

――“出会い”ですね。

悠木:そう、出会いなんですよ。たとえばお店で並んでるぬいを見たときに、「自分が持って帰らなかったら、この子どうなるんだろう」ってちょっと想像しちゃう。気づいたら“救出”してる(笑)。

――わかります!

悠木: しかも、ぬいぐるみって誰もが子供のころに一度はハマったことがあると思うんですよ。男子でも女子でも。ソフビとか、ぬいとか、そういう“形に残る可愛さ”を愛でる感覚って、どこかに残ってると思うんです。

――形あるものを持つ喜び、ですね。

悠木: そうそう。形として残る嬉しさ、あると思います。だから、別にSNSに上げる必要もないんですよ。ただ、さりげなく続けられて楽しい推し活として、ぬい活がすごく合ってるんだと思うんです。

――そして今の“ノエちゃん”に繋がると。

悠木:そうですね。ノエちゃんは、ぬいぐるみ作家の茶々さんにオーダーして作ってもらった子で、元々のモデルは同じく茶々さん作のクノエちゃんなんです。クノエちゃんは「異世界からやってきたウサミミカイコガ族」という設定で、ウサギとカイコガ、グリフォンの特徴を持つ不思議な生き物なんですよ。

――クノエちゃんを小さくしたのがノエちゃんだったんですね。

悠木:はい。クノエは大きいので持ち歩きが難しくて「この子を連れ歩けるサイズにしたい」とお願いして作ってもらいました。それがノエちゃんです。サイズ感ってすごく大事で、バッグの中で潰れないけど存在感がある、ちょうどいい大きさが理想なんですよね。

――ほかにもぬいはたくさんいらっしゃるとか。

悠木: めっちゃいます(笑)。家に“ぬい棚”があります。IKEAで売ってる天井から吊るす網みたいな収納があるんですけど、それがパンパン。ぬいたちがびっしり詰まってて、母には 「また人柱増えてるね」って言われてます(笑)。

――そんなに多いんですか。

悠木: キャラクターのぬいも多いですね。ポケモンとかFGOとかマーベルとか、推してるキャラのぬいぐるみもどんどん増えちゃって。ちゃんと“ぬいはぬい専用スペースに” って決めてるんですけど、もう満員です。

――改めて伺いたいのですが、何故ぬいぐるみを連れ歩くのでしょう?

悠木:いや、なんか、すごい・・・・・・やや重い話になるかもしれないんですけど(笑)。人って、依存できる場所が3か所あると精神が安定すると言われてるんです。たとえば家族とか、友人とか、仕事とか。でもそれって全部“人”だから、安定しにくいんですよね。

――なるほど。確かに、相手が人間だとコントロールできませんもんね。

悠木: そうなんです。生き物はコントロールできないし、こちらの行動が迷惑になったりする。影響し合えることは生き物の良さでもあるんですけど、時に不安にもなる。でも、推し活ってその“3つの依存軸”を別の形で満たせるんですよ。3つのコンテンツ、もしくはそのうち1つが推し活、とかでもいい。本気で推せるものがあると、自分のメンタルを安定させられる。だから私は推し活が流行ってると思うんです。

――今の世の中にマッチしているのかもしれませんね。

悠木: ぬいぐるみって、一緒にいてくれるし、触れることもできる。でも生きてないから、相手に迷惑をかけない安心感もある。そのバランスが、たぶん心を支えてくれるんです。

――確かに、ぬい活って“さりげない推し活”にもなりますよね。

悠木: そうなんですよ。たとえば動物を推してたとしても、本物の動物を外に連れ歩くのは場所や天気なんかを慎重に選ばないといけない。動物ちゃんファーストが求められます。でもぬいなら自分の都合に付き合わせても、ストレスかけちゃったりしないから、安心かなって。

――そう考えるとぬいはストレスフリーですね。

悠木:最近は動物系コンテンツも多くて、私も大好きなんですけど。「その飼い方はどうなの?」みたいな議論も起こりやすいですよね。生き物だからこその繊細さがある。そこも良さなんだけど。でもぬいぐるみなら、誰にも迷惑をかけずに“かわいい”を共有できる。

――誰も傷つけない推し活。

悠木:そう。私も昔、飼い猫の写真をSNSに投稿したときに、なんてことない写真だったんですが、やはり生き物にかけるべきでない言葉をかけられたりもして。だけど、ぬいぐるみなら平和に楽しめるし、見た人も優しい気持ちになれる。

――実際“ぬい撮り”をするときに何か気をつけていることはありますか?

悠木:あります。人の流れがある場所では出さない、フラッシュは使わない、撮影は短時間で終わらせる、映り込みなどに注意するなど、周囲に迷惑をかけないことが大切です。マナーの問題もありますが、そうした方が“風景の一部”として馴染ませられて可愛い写真も撮れますし。

――本当に“さりげない推し活”そのものですね。

悠木: そうですね。自分で「かわいいな」って思える写真が撮れたら、それで十分。それを誰かに共感してもらえたら、ラッキー!くらいの気持ちです。

――ぬいのメンテナンスや、持ち運びの工夫もされていますか?

悠木:はい。お出かけ前にブラッシングしてホコリを取ったり、持ち運び用のクリアケースにクッション材を入れたりしてます。そうするとカバンの中で形が崩れないんです。

――外でぬい撮りしていて「悠木碧さんだ!」 とバレたことはありますか?

悠木: 一度もないです(笑)。ぬいをちょこんと置いてサッと撮るだけですし。街中って、意外と誰も見てないですよ。みんな自分の世界に集中してるから、こっそり撮ってても全然気づかれません。もしかしたら、あたたかく見守ってくれてるのかもしれませんが。

――ぬい活を通して、何か自分自身の変化はありましたか?

悠木:前は仕事以外の時間を“休むため”に使ってたんですけど、今はぬい活が“エネルギーをチャージする時間”になりました。「この子とどこへ行こうかな」って考えるのがすごく楽しいです。

――人生の楽しみ方がひとつプラスされた感じですね。

悠木: そうかもしれません。少し疲れた時にノエちゃんを撮ったりすると、「でもノエも一緒にいてくれるしな」って思えて癒されます(笑)。

――最後に、ぬい活をしてみたいけど一歩踏み出せていない人へ、メッセージをお願いします。

悠木: まずは気軽に始めてみてください。スマホひとつで十分です。大事なのは“自分がかわいいと思う瞬間”を撮ることだと思います。自分のペースで、誰かと比べずに楽しめるのがぬい活のいいところ。小さい頃の自分がぬいを大事にしてた気持ちを思い出して、もう一度あの時間を味わう。そんな風に楽しんでもらえたら嬉しいです。

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